幼児期から成人期にかけた身体活動習慣の追跡 — 27年間の縦断研究
- 善導寺こどもクリニック
- 9月4日
- 読了時間: 3分
Healthy Habits 76_身体活動 13
今回は、幼児期から成人期までの身体活動習慣の変化とその持続性(トラッキング)を27年間追跡した研究(※)を読みました。
Introduction
身体活動(Physical activity : PA)のtracking(トラッキング)とは、個人の身体活動の傾向が年齢とともにどの程度安定しているか(=順位や傾向が維持されるか)を示すものであり、公衆衛生や予防医学にとって重要な概念である。
これまで幼児期(就学前)からの長期トラッキングを複数の出生コホートで追跡した研究はなかった。
本研究の目的は、フィンランドの6つの出生コホートを対象に、幼児期から成人期(最大27年間)にわたる身体活動のトラッキングとその決定要因を、Simplexモデルなどを用いて分析することである。
MATERIALS AND METHODS
(1) 対象
Young Finns Study
フィンランドの3~18歳の子ども 4,320名から無作為抽出し、3596名(83%)が1980年に初回参加。
追跡期間:1980年 → 1986年 → 1992年 → 2001年 → 2007年(最大27年間)
(2) 身体活動の評価
3歳・6歳児:母親による報告
屋外遊び時間(夏・冬)
他児との比較による活動性
運動の強度・楽しさ
家族の運動への励まし
→ 8〜23点でPA Index(PAI)を算出
9歳以上:自己申告
運動頻度・強度
スポーツクラブ参加
運動競技会参加
→ 年齢に応じたPAIを算出
(3) 解析
Spearman相関:身体活動の順位相関を算出
Simplexモデル:測定誤差を補正し、真の「活動習慣の安定性(stability coefficient)」を推定。
RESULTS
1. 幼児期の活動が小学生期以降を予測
3歳児(男の子):3歳時点で活動的な子は 6年後も活動的である傾向(回帰係数 b=0.20, p<0.001)。
6歳児(男の子):6歳で活動的な子は小学生期の活動量をより強く予測(b=0.24, p<0.001)。
女の子では、3歳時点の活動と小学生期の活動には弱い関連(b=0.13, p<0.001)、
6歳時点では有意な関連は見られなかった。
2. 幼児期の活動が成人期まで影響
男の子では、3歳・6歳時点の活動量が成人期(27年後)まで間接的に影響:
3歳時点の活動 → 成人期活動:間接効果 0.06(p<0.01)
6歳時点の活動 → 成人期活動:間接効果 0.06(p<0.01)
女の子では、幼児期の活動から成人期への直接的な影響は見られなかった。
3. 青年期以降は「運動する人・しない人」が固定化
青年期(18歳頃)以降は、活動量の安定性が高まり、活動的な人はそのまま活動的に、不活動な人もそのまま不活動傾向を維持。1980年時点で「活動量が高い」グループのうち、27年後も高いままだった人は男性46.7%、女性41.5%だった。一方、「低活動グループ」でも男性41.4%、女性36.9%が低いままだった。
DISCUSSION
本研究の強み
・27年間という長期追跡
・3歳〜45歳までの幅広い年齢を対象とした代表的サンプル
・6つの出生コホート
・複数回の測定を用いたSimplexモデルによる解析
limitation
・身体活動の測定が、自己申告または母親による評価の年齢もある
結論として、身体的に活動的なライフスタイルは、幼少期からすでに形成され始め、青年期から成人期にかけては中等度から高い安定性をもって維持されることが明らかになった。
「トラッキング」と「活動量」を同時に確認する視点は、現場でもとても大切だと感じました。活動習慣の順位が高い=十分に活動しているとは限らないと考える必要があります。さらに、年齢や性別によって注意すべきポイントも異なります。たとえば、幼児期は活動量が高くても習慣はまだ不安定で、思春期女子では活動量が減りやすく、青年期以降は習慣が固定化しやすいなどです。つまり、個々の子どもに応じて、順位と絶対量の両方を意識した支援が必要だと感じました。

(※)Telama R, Yang X, Leskinen E, et al. Tracking of physical activity from early childhood through youth into adulthood. Med Sci Sports Exerc. 2014;46(5):955-962.
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