子どもの睡眠不足症候群とは
- 善導寺こどもクリニック
- 1 日前
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Healthy Habits 81_睡眠14
今回は、「Insufficient Sleep Syndrome :睡眠不足症候群」という概念を説明したレビューをとりあげます。(※)
現代の私たち、子どもたちにとってとても大切な内容と思いましたので、長くなりますが備忘録を兼ねて要約を作りました。ぜひご一読ください。
1. はじめに
睡眠は子どもの脳や体の発達に欠かせず、乳児期のわずかな睡眠不足でも成長に悪影響を及ぼす可能性がある。現代では夜型生活が広がり、就寝時刻が遅くなる一方で、起床時刻は変わらないため、子どもたちは慢性的な睡眠不足に陥っている。
睡眠不足は単なる「眠気」の問題ではなく、自律神経やホルモン、代謝、免疫など生命を支える多くの機能に影響する。
出生後に形成される睡眠–覚醒リズムは一生にわたって健康に関わるため、早期からの睡眠不足改善が重要。睡眠不足、特に慢性的な睡眠不足が、様々な健康問題の第一歩であることを認識し、それを改善しようと取り組むことは、子どもの生涯にわたる心身の健全な発達に寄与することになる。
2. 小児の睡眠不足
子どもの睡眠不足は、日中の強い眠気や集中力低下、行動異常などを引き起こす。診断は明確な基準がなく、夜間の睡眠不足とそれに伴う症状の有無で判断されている。慢性的な睡眠不足は、学習や記憶の妨げになるだけでなく、脳や体に過剰なストレスを与え、神経細胞の損失につながる可能性がある。つまり、子どもの睡眠不足は一時的な問題にとどまらず、長期的に健康を損なうリスクを持っている。
2.1 夜間基本睡眠時間:NBSD
子どもに睡眠不足があるかどうかを判断するには、必要な夜間睡眠時間を知ることが大切。
スイスやイギリス、カナダの研究では、1〜6歳の夜間睡眠は平均10〜11時間でほぼ一定しており、日本の調査でも同様に約10時間必要と報告されている。一方で昼寝は成長とともに減っていき、学齢期までに消失する。このため著者は、1〜6歳児にとって夜間に必要な睡眠時間を「夜間基本睡眠時間(NBSD)」と呼び、日本の子どもで平均10時間、欧米の子どもでは10〜11時間(特に多くは11時間)が必要と提案している。この時間は「子どもの日常リズムに必要な基本睡眠時間」である。
2.2 不十分な睡眠とは夜間睡眠の不足を意味する
大人では「不十分な睡眠」は夜間の睡眠不足を意味するが、幼児では総睡眠時間(日中の昼寝を含む)で評価されることが多いのが現状。著者はこれに異議を唱え、子どもの睡眠不足は 「夜間睡眠が足りていないこと」 こそが本質だと強調している。
夜間睡眠が不足すると、昼間の不規則な長い昼寝や週末の朝寝坊で補うようになり、結果的に生活リズムが乱れて「ソーシャル・ジェットラグ」や睡眠負債につながる。
最近の研究でも、子どもの発達にとって特に大事なのは 夜間睡眠 であることが示されており、総睡眠時間だけで評価するのは不十分。結論として、著者は幼児の睡眠評価では「夜間睡眠が十分に確保されているか」を重視するべきだと述べている。
3. 1〜6歳児のISS診断基準:提案
これまで乳幼児の睡眠は「1日の総睡眠時間」で評価されてきたが、著者は夜間睡眠の長さこそが重要だとしている。子どもの必要な夜間睡眠時間(NBSD)は睡眠記録や休日の自然な起床時間から推定できる。研究によると、夜間8時間未満は明らかに不足で、発達に悪影響を及ぼす恐れがある。9時間未満でも注意が必要で、強い眠気や行動異常、週末の朝寝坊などの症状があれば治療を考えるべきとされる。特に幼児期の睡眠不足は、学業成績の低下や発達障害(ASD)との関連も報告されている。このため著者は「夜間睡眠8〜9時間を下回る子どもには、早期の介入が必要」と提案している。
4. 幼児期の睡眠情報は重要
乳幼児期の睡眠障害は成長とともに改善することもあるが、その時期の睡眠不足が将来の心身の健康に大きな影響を残す可能性がある。
胎児期から乳児期にかけて適切な体内時計(概日リズム)が形づくられることが、その後の一生の健康に直結する。妊娠中の母親の生活習慣も胎児の体内時計に影響し、不適切なリズムは発達障害や生活習慣病、うつ、認知症などにつながることが報告されている。
そのため「成長すれば自然に治る」と放置するのではなく、早期発見・早期対応が望ましい。
5. 乳児期から始まる睡眠不足習慣
子どもの就寝・起床リズムの乱れは、生後すぐから始まります。調査では、2歳までに就寝時刻が平均21:00から21:30に遅れ、必要な10〜11時間の夜間睡眠が確保できず、毎日少しずつ睡眠不足が蓄積していることが示されている。実際、平日と週末の起床時刻には差があり、子どもたちは不足分を昼寝や週末の朝寝坊で補っています。しかしこれは「ソーシャル・ジェットラグ」を招き、生活リズムを乱す原因になる。
こうした傾向は世界各地で共通して見られ、近年は特に夜更かしが増えている。ところが起床時刻は変わらないため、「就寝が遅れるのに起床は早い」というミスマッチが現代の子どもたちの大きな課題になっている。
6. 概日リズムの破綻によって発症するISS
慢性的な睡眠不足は、体内時計のリズム(概日リズム)を乱す第一歩。
本来眠るべき時間に起きて活動していると、体のリズムがずれてしまい、これをクロノディスラプション(概日リズムの破綻)と呼ぶ。
その流れは次のように進行する:
毎日の睡眠不足
平日の昼寝や週末の朝寝坊で補う
しかし補えず「ソーシャル・ジェットラグ」に
睡眠負債が蓄積
概日リズムの睡眠障害(特に遅延型睡眠相障害)を発症
最終的には学校や社会生活からの離脱
つまりISSは「ただの寝不足」ではなく、リズムの乱れから生活全体の困難へつながる連鎖。
7. 小児の夜間睡眠不足の背景
子どもの夜間睡眠不足の背景には大きく2つの要因がある。
1つは、夜型の生活習慣が広がり、必要な10〜11時間の睡眠を確保できなくなっていること。もう1つは、夜間に目が覚めやすく、連続した睡眠が保てないこと。
具体的には、メディア使用や入眠困難、夜間覚醒などの生活習慣や体質的な要因が関係している。さらに、必要な睡眠時間が長い子どもでは、現実的に十分早い就寝が難しいという問題もある。その結果、子どもたちは昼寝や週末の朝寝坊で不足を補うが、完全には解消できず、生活リズムの乱れが慢性化していく。
(8. 不十分な睡眠症候群の治療)治療内容は割愛
9. 結論
子どもの睡眠障害は放置せず、早急に対応することが大切。特に睡眠不足は将来の健康に深刻な影響を及ぼす。判断の基準は「総睡眠時間」ではなく、夜間に必要な睡眠が確保できているかどうか。著者は、日本の子どもで約10時間、欧米の子どもで約11時間の夜間睡眠(NBSD)が必要と提案している。
保護者は子どもの必要な睡眠時間を把握し、朝7時までに十分眠れるように就寝時刻を調整することが重要。これにより、ソーシャル・ジェットラグや睡眠負債を防ぎ、子どもの健やかな発達と、生涯にわたる心身の健康につながる。
このレビューは、睡眠は単なる休息ではないということを強調しています。睡眠不足は単に“眠い”という問題ではなく、自律神経、ホルモン、代謝、免疫など全身の生命機能に影響するリズムの乱れを意味します。この睡眠–覚醒リズムは生まれて間もなく形成され、一生の健康を左右する可能性があります。この視点をもって、小児期からの睡眠習慣づくりを私たち大人たちがやらないといけません。

(※) Miike T. Insufficient Sleep Syndrome in Childhood. Children (Basel). 2024;12(1):19.
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