思春期の子どもとスマホの関係:QOLに与える影響を縦断研究で検証
- 善導寺こどもクリニック
- 7月2日
- 読了時間: 4分
更新日:7月3日
Healthy Habits 73_スクリーンタイム13
今回は子どものスマートフォンの使用とQOLに焦点をあてた縦断研究を取り上げます(※)。
Introduction
子どもの健全な発達にはQOL(生活の質)やメンタルヘルスが重要だが、近年はCOVID-19などの社会的影響によりQOLの低下が懸念されている。同時にスマートフォンの使用が急増し、「問題的スマホ使用(PSU)」が注目されている。PSUはQOL低下や心理的問題と関連するが、長期的な推移や性別・年齢による違いを検討した研究は限られている。
本研究は以下の点を目的とする
・2018~2024年の7年間におけるPSU、スマホ使用時間、QOLの変化を分析
・PSU・スマホ使用とQOLとの関連性、およびその年次変化を検討
・年齢および性別による差異を分析
Methods
■ 研究デザインと対象
ドイツ、2018~2024年にかけて収集された10〜17歳1,113人の2,576データポイント(繰り返し調査含む)を用いた。対象者は全員スマートフォンを保有しており、PSUスコア・スマホ使用時間・QOLスコア・母親の学歴情報が揃っていることが条件。
■ 測定指標
・PSU(問題的スマホ使用): 15項目からなるSmartphone Addiction Proneness Scale(韓国で開発、ドイツ語版あり)を使用。スコアは15〜60点、41点以上は「臨床的に問題あり」。
・スマホ使用時間: 平均使用時間を「<3時間」と「≧3時間」に2分類
・QOL(生活の質):KIDSCREEN-27を用い、身体的・心理的健康、人間関係、家庭・学校環境を含むスコアを算出(平均50、SD10)。
・共変量: 年齢、性別、母親の教育レベル
■ 統計解析
・データの記述統計
連続変数(例:PSUスコア、QOLスコア、年齢)は、平均値と標準偏差(SD)を算出。
カテゴリ変数(例:性別、スマホ使用時間が3時間以上か未満か)は、人数(n)と割合(%)で集計。
・PSU、スマートフォン使用時間、QOLが調査年(2018〜2024)とどう関連しているか
・PSUとスマートフォン使用時間がQOLにどう関連しているか
を明らかにするために、階層的回帰分析を実施。
※2018年を基準とした
※年齢・性別・母親の学歴を共変量として調整し交絡を排除
Results
1113人の子ども、2576のデータポイントにおいて、平均年齢は14歳で、3時間以上の使用は52%だった
■ PSU(スマホ依存傾向)の変化
2021年以降、PSUスコアが有意に上昇
平均:2018年 27.6 → 2023年 30.0
女子と年少児で上昇が顕著
女子:+3.01ポイント(2018〜2023)
11歳では2023→2024に有意な低下(唯一)
■ スマホ使用時間(≧3時間)の増加
2018年:37% → 2024年:73%
男女・年齢での差はなし
■ QOL(生活の質)の低下
平均:2018年 53.6 → 2024年 50.8(有意な低下)
女子の低下幅が大きい(−3.7ポイント vs 男子 −1.0〜−2.2)
■ PSU・使用時間とQOLの関係
PSUが高いほどQOLは低い(b=−0.38、p<0.001)
→ 2022年・2023年でこの負の関係が強化
使用時間≧3時間では、QOLが−1.93ポイント低下(p<0.001)
→ 女子の方が影響大(−2.53 vs 男子 −1.26)
Discussion
■ 全体傾向とCOVID-19の影響
この研究はコロナ前後を含む7年間の変化を可視化した点で重要である。
2021年以降、スマホ依存・使用時間ともに増加し、それに伴ってQOLは有意に低下した。
特に、女子と年少児は変化の影響を受けやすい脆弱群であることが示された。
■ メカニズムと双方向性の可能性
スマホ使用 → QOL低下(例:睡眠障害、SNS疲労、学業低下)
QOL低下 → スマホ使用増加(逃避・孤立感の補完)
という双方向性の可能性があり、単純な因果とは言い切れない。
■ 性別・年齢の違い
女子はSNS中心の利用が多く、内在化問題との関連が強い可能性がある。
年少児は、生活リズム・自己制御が未熟なため、環境変化の影響を受けやすい。
まとめ
この研究は、スマートフォンの使用がますます問題化しており、それが子どもの生活の質の全体的な低下と負の関連を示している(=使用が増えるほどQOLが下がっている)ことを明らかにしている
PSU(問題的スマホ使用)とQOLの関係を、長期的かつ大規模に時系列で分析した貴重な研究でした。
ただし、本研究の対象は主に思春期のスマートフォン保有者であり、小学生や非保有児童などのより低年齢層には当てはまらない可能性があるため、解釈には注意が必要です。
実際、より低年齢の段階で長時間スマートフォンに接することが、思春期以上に深刻な影響を及ぼす可能性も考えられます。今後はそうした層を含めた検討が重要になると感じました。

(※) Poulain T, Meigen C, Kiess W, Vogel M. Smartphone use, wellbeing, and their association in children. Pediatr Res. Published online May 12, 2025. doi:10.1038/s41390-025-04108-8
【Healthy Habits 全記事まとめ】→ こちら
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